
FLOWERと男
花と女の物語・・美しく、儚く誇らしい何処か似ているふたつ。
「 Noと言えない、女」
花は、お好きですか? 私は、花は大好きです。
大好きな花の一つにMadonna lily(百合)という花があります。
私が思うリリー(以下Madonna lilyをリリーと呼ぶ)は少し嫉妬深く扱
い難いけど、常に凛として気高な女性らしい花を思い浮かべます。その反
面、純粋で少し少女の面影を残した花。今日は、そんなリリーの花をモ
チーフにした物語です。
リリーは、無口で華奢な容姿とは裏腹に。近づくものには、こっそり黄色の花粉と強い独特な香りを相手に付着させる。そのリリーの魔法に、みんなが虜になる。黄色の花粉、それはリリーという存在が確かにここに居たという証拠。独特な香りは、貴方が何処にいても私を忘れさせないようにと。
リリーは、孤独が嫌い。だけどリーリーと正反対な醜い僕はそばに居て機嫌を損ねないようにする。それは、僕にとっては至福の時間。何故、そんなにリリーに世話を焼くのかて?だって、リリーは、自分では気づいていないけど人一倍寂しがり屋。僕がそばに居ないと直ぐに弱ってしまう。リリーは、僕がどんなに尽くしてもなんとも思ってないってことしている。僕はただ、リリーを見ていたいんだ。それだけで、幸せそして十分な事なんだ。
今日のリリーは、いつもより機嫌がいい。どうしてかって?それは、あの男が来ているから。YHというニックネームだけで素性も知らない。知っているのは雨が降る夜になるとフラッと姿を現す。艶やかな赤褐色の肌に黒のコートをいつも着ている。リリーは口にはしていないけど、この男に夢中。帰り際のリリーは、笑っているが何処か切なくみえる。だけどあの男は、一度も振り向きもしないで去っていく。
嫌な男!僕は、大っ嫌いだ!
そして僕は知っている。男が来るたびにリリーのからだに異変があること。からだが蝕まれていることを。
「このままだとリリーがあの男に殺されてしまう。僕が何とかしなければ・・」
あの雨の晩から、リリーは何だか落ち着かない様子だ。どうしてかって?YHが姿を現さないからさ。僕のリリー、頼むからあんな男の事であなたが苦しまないで。リリーは、礼拝堂が似合う花。否定な思考は、似合わない。誰一人、そのようなあなたを望んでいない事をあなたもよく知っている。僕は、葛藤しながらも聖母の姿を保とうとするリリーを見ていると限りなく滑稽でますます愛
おしくなるんだ。そして、いつか僕のした事がリリーの為だったと気付いてくれると信じている。
(続き)
今日も僕は、水をリリーに運ぶ。リリーの後ろ姿は、以前の様にピンと伸び元に戻ってきた様だった。ふと僕は独り言をこぼしてしまった「本当に良かった、あの男が居無くなって。いつものリリーだ。」
「あなた・・あの人のこと知っているの?」
滅多に僕に話しかけないリリーが、僕に声をかけた。僕は有頂天になり、そして慌てて話した。「僕は、何も知りません。僕は、リリーが元気なのが嬉しいだけです。だって、あの男が居ると、リリーが死んでしまう。そんなの、見ているのは耐えられない。僕は死ぬほどあいつが嫌いだ。」
リリー「そう・・・」
リリーは、その日から僕を部屋に入れなくなった。僕は、心配で心配で、部屋のドアの前をうろちょろしてた。何日も何日も引きこもり、不安で押し潰れそうだった。そんなある晩のこと、雨がシトシトと降りだしていたころ。ドアの向こうで、リリーの声がした。
「ねえ、お水をちょうだい。」
「はい、今すぐ、持っていきます。」僕は、慌てて、外に水を汲みに行った。
「早くしてちょうだい。」
「はい、ただいま。」白い布に含んだたっぷりの水をリリーに与えようとした。その時、リリーの口から思わぬセリフが僕の耳に入った。僕は、耳を疑った。
「ねえ、首を寝違えて上手く飲めないの。口移しでちょうだい。」
やっぱり、聞き違いではなかった。リリーは、水を僕の口から貰うのを望んでいるのだ。
「え?それは・・」
「お願い、私喉がカラカラなの死んじゃうわ。早く、お願い。」
「わかりました・・」僕は、覚悟を決めた。コップの水を自分の口に含み、リリーの真っ白な花びらに水を滑らせた。リリーは、僕をきつく引き寄せた。僕のからだに、何度も何度も、何度も何度も愛撫をし、僕はそれに応えた。
「ドタッ・・」
僕は、床に転がり落ちた。ピクピクと尻尾が暫く痙攣してすぐに動けなくなった。遠のく意識の中で微かにリリーの声がした。
「私のアルカロイドのお味は、いかが。ネズミには良く効くでしょうね。ねえ、ネズミさん。あなたには、死んでも分からない事でしょうね。私は、私がいつ散るのか知っている。どう散るかは、私が決めるの。あの人は、確かに私の全てを求めていた。誰よりも、強く、私を愛した。それでも私は、幸せに
満ちていた。ただ・・それで、良かったことなのよ・・・」
そうリリーは僕に言った。あのリリーが、僕に薄汚れた言葉を・・
あなたも、決めたんだね。
リリー、あなたも僕も一緒だよ。愛しては、いけない人を愛したんだ・・
~男の回想~
リリー、君はいつだってそうだった。愛してはいけないものを愛す。
僕はそれを見ていて、自ら不幸を選ぶ人だと思って哀れんでいた。でも、それは違ったんだ。
君は、傷つき壊れそうな人を見るとあなたの心がほっておけなこと。
そして、君の無償の愛で相手を癒す。傷が治るまで、ただ癒す。
そんな人々は傷が癒されるとあなたの元を去る。
慈悲深いあなたは、何も言わずに自分の使命を信じている・・
死んだ母が最後に僕に言ったんだ。リリーは危険だと、近づいてはいけないと。
その言葉は、優しかった母からの最後の忠告となった。だけど僕は、その忠告を無視した。僕は、打算もない聖母の様なあなたに、夢中になった。
僕にとってあなたは危険な筈なのに、リリーに、恋をしてしまった。
そして、これ以上リリーが傷つかないように僕が側にいるんだ。そう誓ったんだ。
あの男が、二度とリリーの前に現れないように・・
あの最悪な嵐は、僕にとって幸運だった。どうしてだって、僕の願いが、まさか意図も簡単に叶えられたのだから。それからと言うもの僕の冴えなかった日常が、色鮮やかになったんだから。心から幸せだった。だって毎日毎日、これからも大好きなリリーの側にずっと居られるのだから。
その雨の夜はいつもとリリーの様子が違っていたのを今でも鮮明に覚えている。あなたは傷ついたものをまた癒していると思っていた。
けれど、あの男だけは違っていた。いつもの様に傷を癒してあげるだけのあなたでは無かった。
あの男は、あなたの愛以外に全てを奪おうとしていた。
僕の大切なリリーの全てを。
なのにあなたは、何もかも知りながらそれに応えようとしてる。
僕の嫉妬・・違う、違う信じてくれ。本当にリリーの為にした事なんだから。
でも、もう良いんだ。
僕は、本当の幸せを手に入れてあなたの中で散った。幸せなまま、散ったんだ。
※Madonna lily:ユリ科(原産地 ヨーロッパ)
(花言葉:純粋・無垢)
マドンナリリーはヨーロッパでは、古くから聖母マリアの象徴とされ、教会花としても用意られています。バチカン市国の国花。マドンナリリーの流通は、ほとんどありませんが日本では主に鉄砲百合が近い品種です。百合には毒があります。アルカロイドと言います。
※YK:ユリクビナガハムシ
(ハムシ科)
5月から6月にかけて発生する。幼虫も成虫の時もユリしか食べない。葉だけでなく蕾も食べ尽くしてしまう。幼虫時は、赤褐色をして、敵から身を守るために排泄物を背負って擬態化している。成長する時期には、背負っていた排泄物を降ろし、白い繭を作って蛹化する。